[パテラ]膝蓋骨内方脱臼整復-脛骨粗面転移術

  • 膝蓋骨脱臼

膝蓋骨(しつがいこつ)いわゆる膝のお皿です。

膝蓋骨のことを英語でパテラというのですが、なぜか日本ではパテラ=膝蓋骨脱臼して使用されています。

膝のお皿が通常の位置より外れることを膝蓋骨脱臼と言います。

小型犬では内側に外れる内方脱臼が多く、臨床の現場でも大変よく目にします。

大型犬では外方脱臼が多いですが、大型犬自体が少ないこともあり現場ではあまり遭遇しません。

レントゲン画像です。

黄色の点線が内側にずれている膝蓋骨。

本来は赤い点線のあたりに収まっています。

 

  • 原因
    • 先天性

生まれつき脱臼を起こしやすい状況にある場合、遺伝的な素因や成長過程での骨や靭帯、筋肉の異常で起こると言われています。

    • 後天性

他の関節の脱臼同様、高いところから落ちた衝撃などで外れることがあります。

 

  • 分類
    • グレード1

膝蓋骨は普段は正常な位置に収まっていて、手で押すと簡単に外れるが手を離せば元に戻る。

症状がほぼ出ないので飼い主さんは気付かないことが多い。

ただ、普段は正常な位置にあるので、何かの拍子に外れた時に違和感は出やすい。

    • グレード2

手で外した膝蓋骨が手を離しただけでは戻らず、足を曲げ伸ばしすることによって元に戻る。

もしくは足を曲げ伸ばししただけでコキコキと外れたり戻ったりする。

現場ではグレード1〜2の子に遭遇することが最も多い。

    • グレード3

膝蓋骨が常に外れた状態にあるが、手で押せば一時的に正常な位置に戻すことはできる。

様々なリスクが想定されるため、手術を提案する。

    • グレード4

膝蓋骨が常に外れた状態にあり、手で整復することができない状態。

先天性の場合、足の成長に異常をきたす可能性があるため早めの手術が必要。

 

  • 症状

目立った症状がない場合が多いです。

ワクチンなどで病院に行った時に「この子、膝のお皿が緩いですね。」なんて言われて初めて知った…なんて方も多いのではないでしょうか?

脱臼と聞くと激しい痛みがあるように思いますが、他の関節に比べ激しい痛みを伴うことは少なく、外れた時の違和感で足を上げたまま歩いたり、自ら曲げ伸ばしして治そうとする仕草で飼い主さんは気付かれるかと思います。

事故などの衝撃で外れてしまった場合は強い違和感とキャンキャンと鳴き叫ぶこともあるかと思います。

 

  • 治療
    • 保存療法

症状がほとんど発現しない場合や何らかの理由で麻酔をかけられない 場合は何もしないことも多いです。

膝に負担がかからないよう体重管理、滑りづらい床材への変更、サプリメントでのケアが中心となります。

一時的に痛みが出た時には鎮痛剤を使用することもあります。

    • 外科手術

成長期に発覚した場合や、症状の発現が著しい場合は外科手術をお勧めいたします。

必ずしもグレードが高いからと言って手術が必要になるわけでもなく、逆にグレードは低くとも症状が頻発するなら手術を検討する場合もあります。

逆に対してひどくない状態でも「パテラ=手術。歩けなくなるぞ!」なんて言われてしまうケースも多いようです。

もちろん悪化してそうならないとは限りませんが、よく相談していただいた上で治療方針を決めて頂きたいと思います。

 

様々な術式がありますが、当院で行なっている脛骨粗面転移術を実際の写真をお見せしながら説明させていただきます。

※手術画像になりますので、苦手な方はお気をつけ下さい。

 

 

  • 脛骨粗面転移術

[動画]膝蓋骨が外れる様子

親指と人差し指で挟んでいるのが膝蓋骨です。

    動画の始めは正しい位置に収まっていますいが、一旦外れたら戻そうとしても靭帯に引っ張られてすぐに外れてしまうのが分かるかと思います。

     

    皮膚を切開したところです。

    膝のお皿と繋がっている靭帯を内側に引っ張るテンションを和らげるため筋肉をリリースします。

     

    [動画]外れやすい膝蓋骨

    動画の初めに正常な位置に戻していますが、ちょっとした刺激ですぐに外れる様子です。

    正常な位置だと膝蓋骨と繋がっている靭帯が足に対してだいぶ斜めになっているのがお分かりいただけるでしょうか?

     

     

    靭帯の付け根である脛骨粗面をカットします。

     

    内側についていた靭帯の付け根を外側(左側)に移動させます。

    靭帯が足に対してまっすぐになるような位置に移動します。

     

    [動画]カットした脛骨粗面をピンで固定

    ちょっとやそっとでは膝蓋骨が外れないようになりました。

     

    後はピンを加工して骨に固定したり、より外れづらくするために外側の関節包を縫縮したりします。

    最後に皮膚を縫って終了です。

     

    術後のレントゲンです。

    膝蓋骨が適正な位置に収まってくれました。

    ピンは生涯入れたままとなります。

    レントゲンだと目立ちますが、実際は骨や肉に埋まってしまっていて、何か悪さをすることはありません。

     

    [動画]3日後の様子

    すぐに元気に歩いてくれるようになりました!

    この術式は軟骨に手を加えていないので痛みも少なく回復も早いです。

    膝蓋骨がハマる溝が浅い子は滑車溝増溝術という手術が必要となります。

    外観

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